膜電位感受性色素(VSD)光計測と膜電位計測の歴史メモ

 

また書き足します。

VSD光計測と膜電位計測の歴史のメモ


生物電気と生体膜の概念の形成

1780 Galvani bioelectoricity (animal electricity)

    ガルバーニによる生物電気の発見。いわゆる「ガルバーニの発見」。2つのメスをカエルの足に差し入れると、カエルの足が震えることを発見した。2つの異種金属と電解質溶液によって電気化学的に形成された電池により収縮が起こった。これを筋収縮と結びつけた。

1800   Volta voltaic pile

    ボルタの電池 ー ガルバーニの発見を電気化学的に発展させ、電気化学的な電池を作成した。

1887 van’t Hoff 半透膜を介した浸透圧の定式化

1895 Ernest Overton 脂質膜

    オーバートンが脂質膜という概念を提唱。細胞の内外での物質の分配係数は水と油の分解係数と相関していることを見出した。ここから、細胞を包んでいる膜は油であって脂質lipidとコレステロールからなる薄い脂質”lipoids”の薄膜であると結論づけた。


膜電位の概念の形成

1888 Nernstの平衡電位 膜電位の理論的背景の形成 

電解質の拡散電位に関する熱力学的な(いわゆるネルンストポテンシャルの)定式化をおこなった。膜の両側に異なる濃度の電解質があり選択的透過性があると発生する拡散電位の概念を確立した。


1902 Bernstein, The membrane theory of nervous conduction バーンスタインの神経伝達における膜説の提唱.

Bernstein以前はDu Bois-Reymondにより提唱された損傷電位の概念から、興奮部位とその隣接部位との間の電位差から生じる電流により興奮が伝播すると考えられていた。Bernsteinは興奮時に膜の内外の電位差に従って膜の内外で電流が生じるという説を提唱した。つまり静止状態ではKだけに選択性がある膜が静止電位がKのネルンスト電位に近い電位を示しているが、興奮時にはこの選択性が失われて一気に電位が減少して(膜が分極をやめるーつまり膜が「脱分極」して)興奮するという説を提唱した。


1917 Langmuir 単分子膜(赤血球) 単分子膜の提唱 ー これを受けて

1925 Gorter and Grendelが 赤血球を溶血させその脂質分子が液相と空気層に作る薄膜の面積を計測した。すると、その面積は細胞膜の膜面積のちょうど2倍であった。これから彼らは脂質が親水基を水側に、疎水基をそれぞれ内側に向けた2重の層になっているという脂質2重層という重要な概念を提唱した。


膜電位の計測の黎明期

1927 Taylorら Taylor, CV and Whitaker DM from Nitella 液胞から膜電位を計測した。

1934  Coleら from embryo rat heart muscle culture. 

1934 Kamada, First intracellular recording with microelectrode from animal cell (from Paramecium cell) 動物細胞からの最初のガラス(石英)微小電極による細胞内膜電位記録として非常に重要である。

これらにより、静止電位の概念が実際に計測された。鎌田はまた、実際に繊毛の逆転時に膜電位が脱分極する(さらにはオーバーシュートする)ことを観察している。


生体膜の描像の変遷

1935年 Danielli and Davsonは、膜が機能を果たすためのタンパク質を膜のモデルに組み入れるために脂質2重層の親水基の部分と親水基を外側に向け、疎水基を内側に向けたタンパク質分子が相互作用するもでるをたてた。

1959 Robertson 単位膜 1950年代 電子顕微鏡の発達によって脂質2重層が実際に観測され研究され、「単位膜」というどの膜にも共通の構造を発見した。

1972 Singer Nicolson 流動モザイクモデル 1960年代から盛んになったX線結晶解析の結果をうけてαヘリックスなどの構造が明らかになり、膜へのタンパク質分子の組み込み方に関して現在と同じように脂質2重層に埋まっているとする流動モザイクモデルが提唱された。


イカの巨大神経からの膜電位記録

1939 Hodgkin & Huxley; first measurements of membrane potential in the squid giant axon - Plymouthの臨界実験所においてHodgkinの研究室においてケンブリッジ大の学部を終了したばかりのHuxleyとHodgkinによって最初にガラス微小電極を使ったイカの巨大神経からの活動電位の計測に成功した。Hodgkin AL & Huxley AF (1939). Action potentials recorded from inside a nerve fibre. Nature 144, 710–711.


1942 Curtis & Cole; Squid axon intracellular recording ー CuritsとColeもMBL(米国)で同様の実験に独立に成功した。


1946 Graham and Gerard -- microelectrode recording 一般に有名なガラス微小電極による動物細胞(筋細胞)からの膜電位記録の最初


1949 Hill DK & Keynes RD, Optical recording

最初の光による膜電気現象のの計測


1952 Hodgkin & Huxley, Voltage Clamp

有名なホジキンとハックスレーによるボルテージクランプの実験


1968 Tasaki I et al., ウッズホールの田崎一二による最初の蛍光色素による膜電位の光計測の報告。

しかも8-anilinonaphthalene-1-sulfonic acid (ANS)で膜を染色し、膜の分子との蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)をもちいて光信号を増幅するという極めて進んだ手段を使って計測している。


1972 Cohen LB and his group, Waggoner, Davila, Salzberg, Ross, Grinvald and Orbach

光で膜電位(最初は膜電流を測るつもりだったらしい)を計測するという意図をもって最もよく使われた膜電位感受性色素(VSD)メロシアニン530による光計測。


1981 Patch clampの発明


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ref

[1]C. J. Schwiening, “A brief historical perspective: Hodgkin and Huxley,” J Physiol (Lond) 590(11), 2571–2575 (2012) [doi:10.1113/jphysiol.2012.230458].